今年4月から始まる2024年度には、電力市場において注目すべき動きがあります。容量市場は2024年度から実需給期間に入り、期間中は小売電気事業者などが容量拠出金を負担することになります。需給調整市場においては二次調整力①と二次調整力②が追加で導入され、一次調整力についても調達が始まる見込み(広域調達については不明)です。これで需給調整市場の全商品が取り扱われることになります。因みに、発電側課金も始まる見込みです。

受給調整市場では、2021年度から始まっていた三次②調整力、2022年度からは三次①調整力において、価格や調達量に問題が発生していることが指摘されています。取引開始以降、三次①及び②では、募集量に対し応札量が不足する傾向が続いており、応札された調整力が全量落札されることも少なくありません。2022年夏季には約定価格が高騰することもありました。

資源エネルギー庁は、上記のことは他の商品(一次調整力、二次調整力)でも同様に課題となり得ることを踏まえ、2024年度の取引が開始するまでに改めて、効率的な調達となっているかを検証することが必要としており、主に価格規律と調整力調達量の観点から対応が検討されています。安定供給等の観点なども考慮し、より効率的な電力調達が可能になることを期待したいと思います。

株式会社ゼックパワーは株式会社ゼック(以下、ゼック)とドイツのアグリゲータであるin.power GmbH(以下、in.power社)の共同出資により2020年1月に設立されました。当初は、in,power社が運用するシステムを日本向けにローカライズしてFIPおよびnon-FITの再エネ電源をアグリゲートしていく構想でしたが、2022年8月にinpower社がチェコのSecond Foundation社(以下、SF社)に買収されたため、ゼックパワーの事業方針についてゼック、in,power社、SF社の3者で協議を続けておりました。

結論としては、SF社が日本法人を新たに設立し、当初は主に電力トレーディング事業と再エネアグリゲーション事業ならびにこれらの付帯業務を行うこと、及びこれら事業についてはSF社が開発した電力取引プラットフォーム(Sophon)を日本に展開することとなりました。また、ゼックパワーはそれらに必要なサポートを行っていく方針となっております。

上記方針のもと、今年5月にSF社の本邦現地法人としてTrisolaris(トライソラリス)合同会社を設立し、小売電気事業者、JEPX会員登録等が完了しております。また、沖縄を除く全国9エリアで一般送配電事業との接続供給契約も締結しております。
一方、Sophonにつきましても先日JEPX、OCCTOとのシステム連携が完了し、これにより、独自アルゴリズムを利用した電力市場取引および再エネアグリゲーション事業が展開できる素地が整ったところでございます。

つきましては、再エネ電源の獲得に向け本格的な活動を開始致しましたので、改めましてご興味のある方はお声がけ頂ければ幸いです(ゼックパワーが窓口としてご要望等を承ります)。また、我々も日本におけるビジネススキームについて模索している段階ですので、各種ご要望につきましては可能な範囲で柔軟に対応できればと考えております。

なお、ゼックパワーにはSF社も少数株主として参加しており、また、Trisolaris合同会社にはゼックから社員を派遣するなど、in.power社を含め三者一体となって日本での事業展開を進めておりますので、引き続きこれまでと変わらぬお付き合いをお願い申し上げます。

TRISOLARIS(トライソラリス)合同会社 概要 [PDF]

2023年7月27日の電力・ガス取引監視等委員会(第87回制度設計専門会合)において、2017年から続いてきたグロスビディングを休止する方針が承認され、この10月から休止されました。その背景には何があったのでしょうか。

グロスビディングとは、余剰電力を中心に行われていた卸電力取引所での取引(ネットビディング)に加え、旧一電など大手電力の社内やグループ内取引の一部についても卸電力取引所を介して売買する取り組みです。①市場の流動性向上、②価格変動の抑制、及び③取引の透明性向上の効果を期待して導入されました。

そのうち①市場の流動性向上について、卸電力取引所における取引量は、2017年4月の時点で電力需要の3.5%だったものが2018年4月には17.1%に、2023年3月には39.9%まで増えています。②価格変動の抑制についても、同監視委員会はスポット市場の価格感応度を評価しており、2016年8月に売り追加時が▲0.91円、買い追加時が+1.14円だったものが、2021年8月には売り追加時▲0.41円、買い追加時+0.40円と着実に低下したと報告しています。

指摘されるのは③透明性の向上です。高値での買い戻しが許されてきた経緯があることから、市場価格の形成に影響する可能性が指摘されていますが、行政側は価格中立(価格に影響を及ぼさない)と説明するなど議論は分かれています。

2020年の価格高騰時は燃料不足、2022年はウクライナ侵攻などの影響による天然ガスや石炭などの燃料価格の高騰に起因したもので、大手電力が電力需要を読み違えて発電部門が十分な燃料調達ができなかったことで発電量不足になりました。燃料制約が引き起こす問題は、要するに売り玉不足です。大手電力はグロスビディングで売り投入した分は全量を確実に買い戻すためシステム上の上限である999円/kWhで買い札を入れる、いわゆる絶対買いをしたとされます。売り玉不足の状況で大量の絶対買いが横行すると玉切れ付近で供給曲線が急激に上昇し、本来あるべき均衡価格からかけ離れた高騰を招く可能性があります。

今後の電力市場の動向をよく見ていく必要がありそうです、また市場運営の面からもこれまでのグロスビディングの影響をしっかりと検証してもらいたいと思います。

今年度2回目のFITおよびFIP入札結果が公表されました(出力500kW以上のFIP太陽光発電設備 及び 出力250kW 以上500kW未満 のFIT太陽光発電設備)。

<入札の概要>
・募集容量:110.88779MW
・供給価格上限額:9.43円/kWh

<入札の結果>
・入札件数の合計:55件
・入札された再生可能エネルギー発電設備の出力の合計:69.0742 MW

<落札の結果>
・落札件数の合計:55件(内、FIP:43件、FIT:12件)
・落札された再生可能エネルギー発電設備の出力の合計:69.0742 MW
・最低落札価格:8.95円/kWh
・加重平均落札価格:9.30円/kWh
・最高落札価格:9.43円/kWh

前回第16回の入札容量が募集容量(105MW)を超えたため、規定により今回の募集容量は微増されましたが、入札が募集枠を埋めるに至らず、結果として入札案件は全て落札となりました。
前回と異なるのは、FIPの入札件数が13件から43件に増えており、特高が15MWの1件のみであったことです。前回は90MWの落札案件が入札容量の太宗を占めていましたが、今回は高圧案件が分散して落札された模様です。
今後も募集価格は更に低廉化される見込みですが、今回の最低入札価格は8.95円に達していることから今後も一部の事業者においては入札動機は継続するものと推測されます。
また、FIPにおいては、運用開始時期によって受け取れるプレミアムが大きく変わる可能性があるので、この辺りの事業計画や具体的なスキームをどのように策定しているのか大変興味があります。

今年度のこれまでの太陽光発電における市況について、東京エリアにおける春季の電力市場価格は低価格で落ち着いていたのですが、夏場に掛けてやや高値傾向が継続しています。日中帯においても極端な価格下落傾向は見られず、今回の入札価格を十分に上回る水準となっています。とは言え、4月から8月までの加重平均価格は手元の計算では9円程度です。これが九州となると、4月から7月までで3円程度と東高西低が顕在化しています(因みに北海道の4月から8月の加重平均価格は11円程度です)。もちろん、プレミアムが支払われるので、これがそのまま事業者の収入に直結するわけではないのですが収益の予見性は地域によっても大きく変動するため、かなり難しいというのが率直な感想です。

このように再エネを取り巻く環境はよりチャレンジングなものになってきていますが、ステークホルダーの方々とともにこれを克服すべく挑んで行きたいと思います。

今夏の到来を前に経済産業省資源エネルギー庁は6月29日、10年に1度の厳しい暑さを想定した電力需要に対し、全エリアで安定供給に最低限必要な予備率3%を確保できるとの見通しを発表しました。しかしながら東京エリアでは、追加的な供給力対策を講じてもなお7月の予備率は3.1%と非常に厳しく、8月が4.8%、9月が5.3%という見立てでした。

 東京では猛暑日の年間最多記録更新を記録するなど全国的に厳しい暑さとなっていますが、OCCTOの電力需給モニタリング結果などをみても、これまでのところ需給が逼迫する状況には至っていないようです。6月から電力価格が値上げされたところですが、節電への協力の呼びかけ(東京)や、予備電源の確保や原燃料の調達管理強化など、政府による2023年度夏季の電力需給対策が一定の成果をあげているとみるべきなのでしょうか。

 最大電力実績(東京エリア)

 

 

平均最大電力実績(万Kw)

平均ピーク時供給力(万Kw)

平均使用率実績

使用率ピーク

2023/7/2

2023/7/8

4,243

5,322

79.7%

7/7 13:00
88%

2023/7/9

2023/7/15

4,615

5,417

85.2%

7/12 14:00
91%

2023/7/16

2023/7/22

4,710

5,517

85.4%

7/19 13:00
93%

2023/7/23

2023/7/29

4,925

5,886

83.7%

7/28 13:00
91%

2023/7/30

2023/8/5

5,013

5,907

84.9%

8/4 13:00
94%

2023/8/6

2023/8/12

4,637

5,449

85.1%

8/9 11:00
92%

2023/8/13

2023/8/19

4,352

5,146

84.6%

8/17 11:00
91%

出典:東京電力パワーグリッド公表資料をもとに弊社集計

 少し気がかりな状況もあります。日本の電力会社が備蓄する液化天然ガス(LNG)が8月20日時点で181万トンと、2022年4月以来の最低水準にまで減少していることが報じられました(https://arab.news/53gnm)。今年5月末時点では271万トンだったものが約2/3に減少しています。この備蓄の減少は、夏の猛暑でエアコンの電力需要の増加と、最近の台風の影響で一部の貨物の配達が遅延していることが反映しているとみられます。

 現在も円安は進行し、ガソリンの小売価格は史上最高値に迫る水準にあります。今冬に向けても政府には引き続き、電力市場の安定とエネルギーの安定供給に向けた対策を着実に実施してもらいたいと思います。

平素は格別のお引き立てをいただき、厚くお礼申し上げます。
弊社は下記日程を夏季休業とさせていただきます。

● 夏季休業期間
2023年8月14日(月) ~ 8月16日(水)

ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほど何卒宜しくお願い申し上げます。

今年度1回目のFIP入札結果が公表されました(出力500kW以上のFIP太陽光発電設備 及び 出力250kW 以上500kW未満 のFIT太陽光発電設備)。

<入札の概要>

・募集容量:105MW

・供給価格上限額:9.50円/kWh

<入札の結果>

・入札件数の合計:35件

・入札された再生可能エネルギー発電設備の出力の合計:119,719.8 kW

<落札の結果>

・落札件数の合計:20件

・落札された再生可能エネルギー発電設備の出力の合計:105,000.0kW

・最低落札価格:9.00円/kWh

・加重平均落札価格:9.34円/kWh

・最高落札価格:9.49円/kWh

今回はそもそも募集容量が105MWと昨年度の175MWから大幅に縮小された状況でしたが、入札容量(約120MW)が募集容量を超えたのはFIP制度創設より初めてのことです。ただし、落札発電所の1つが約90MWなので業界全体がFIPに注目し始めたとは言い難いように思います。

また、円安・資源高の状況下で9.5円/kWh以下で果たして採算が取れるのか、個人的にはいささか疑問は残ります。市場価格が比較的高値で推移している東京エリアでも、今年度(3か月間のみですが)の太陽光の加重平均価格は7円/kWhを下回る水準ですので、単純な市場への売電だけでなく、PPAを組み合わせた需要家への直接・間接供給を志向している可能性があります。

一方で、FITからFIPへ移行する電源も徐々に増える傾向にあります。6月1日時点でFITからFIPに移行した電源74件の内訳は、太陽光45件、バイオマス20件、風力9件となっています。FIPは環境価値が当該発電所の帰属するため、電力のみならず環境価値を欲するグローバル企業に対しPPAを締結する動きが活発化しているようです。

*バイオマスはバイオマス燃料価格の高騰に伴い、固定価格買取よりも市場価格に連動させたほうが有利という判断も働いたようです

太陽光においては非FIT/非FIPの電源開発も増加しており、再エネ事業者の動向が多様化するなかで、アグリゲータとしてもこれらに柔軟に対応できるような体制やシステムを構築する必要性を実感しています。

再エネに限らず、皆様からのご意見やご要望を頂ければ、我々にとって非常に有用な情報となりうるのでお気付きの点がございましたらお気軽にお申し出頂ければ幸いです。

『再エネの出力制御の現状』

2018年に九州で初めて実施された再エネの出力制御は、日本では特に太陽光発電の導入拡大とともに全国へ拡大しています。昨年来の電気料金高騰に伴う節約、節電要請などの影響による電力需要の減少もあり、出力制御量は増加傾向にあります。春秋の低需要期を中心に九州エリアでのみ実施されていましたが昨年以降、沖縄を含む他エリアに拡大し、未実施なのは東京エリアのみとなっています。その東京エリアでも、出力制御の実施はもう時間の問題とみられます。

全国の再エネの出力制御量の合計も増加傾向にあり、2018年度は約1億kWh(九州のみ)であったものが、2022年度は全国で約6億kWhに増加しました。九州エリアでは2022年度の実績で、最小需要718万kWに対し、再エネの導入量は1,216万kWと約1.7倍になっています。また北海道、東北、中部、中国、四国の5つのエリアにおいて、太陽光・風力の設備容量が軽負荷期の需要を上回っているそうです。

海外の出力制御率(太陽光と風力)との比較をみると、日本(九州)が3.0%であるのに対してイタリア1.1%、ドイツ3.3%、アイルランドが7.4%、またデンマークは8.2%などとなっており、出力制御を行うことは国際的に一般的という論調で語られています。但し、日本は制御対象の殆どが太陽光ですがドイツは約2割、デンマークは約5割が風力です。(出典:経産省 総合エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会/再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会第52回配布資料3、2023年6月21日)

再エネの出力制御は、社会的コスト全体を抑制しつつ、再エネの最大限の導入を進めるために必要な措置です。再エネの導入にあわせて系統増強等を行うと社会的コストが増大する面はあります。しかし出力制御が発生しないように再エネの導入を抑制するとなれば、本末転倒であり、発電費用ゼロの変動再エネの出力を制御することはそれ自体が社会的な損失で、もったいないことだと思います。

社会的コスト全体を抑制しつつ再エネの最大限の導入を進める上で、再エネの出力制御は必要である一方、必要最低限となるよう制度面を含む環境整備を進め、需給の変動に応じて適切に行われる必要があります。また効率性の観点からも、市場メカニズムをできる限り活用することなども必要です。

行政は、年内を目途に再エネの出力制御低減に向けた新たな対策パッケージを取りまとめる予定とのことです。関心を持って、みていきたいと思います。

需給逼迫時に適用される「補正インバランス料金」の見直しについての議論が始まりました。当初、上限単価は2023年度までは200円/kWh、来年度からは600円/kWhが予定されていましたが、2024年度も上限200円/kWhに据え置く可能性があるようです。ただし、現時点で委員の意見が割れており、先行きは不透明な情勢です。

インバランス料金の上限を巡っては、2021年1月上旬に発生した異常な市場高騰に対応するため、その直後(2021年1月17日)から200円/kWh、同年7月から一定条件の下で80円/kWhに抑えられてきました。

インバランス料金の上限値は、市場価格の形成に大きな影響を与え(需給逼迫時は上限値付近の買い札がおおくなるため)、一般的に上限値の抑制は小売電気事業者に安心感を与え異常な市場高騰を未然に防ぐ効果が期待できます(それでも、多くの小売電気事業者が清算、撤退、新規申込受付停止に至るなど混乱は続いていますが)。

一方で、発電事業者は価格スパイクの恩恵を十分受けられず、発電設備の新規投資に悪影響を及ぼす可能性があります。同様に、DR(デマンドレスポンス)なども価格高騰の恩恵が少なくなるため、市場規模が小さくなる恐れがあります。

我々、アグリゲータの立場としては、インバランス負担の軽減が命題そのものと言っても過言ではないので、上限がある程度抑制されることは歓迎したいと考えています。ただし、行き過ぎた抑制は、市場を歪め、参加者の行動に影響を及ぼすため好ましいとは思えません。難題ですが、その時々で適正な価格を設定してもらいたいと思います。

一例として、(あくまで推測の域を出ませんが)昨今0.01円/kWhのコマが頻発しています。これは買い入札の動向の変化も影響しているのでは?と一部で言われています。0.01円/kWhのコマではインバランス料金が「0」となるため、意図的に買い入札を抑えることで0.01円のコマが実受給以上に多くなっている(つまり、小売電気事業者が必要な供給力を確保していない)可能性を指摘する関係者もいます。

制度設計時には想定していない問題が、最近の電力業界では散見されておりますので紆余曲折があるにせよ、政府や関係省庁には公平で透明性のある市場形成に向けた努力をお願いしたいと思います。

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