昨年の冬、20211月にはJEPXシステムプライス平均値で63.07/kWh、最高値251.00/kWhという驚異的な高値を付けました。今年20221月はシステムプライス平均値で21.94/kWh、最高値 80.00/kWhと、前年との比較では大幅に価格が低下したものの、高騰相場は現在まで継続しています。電力スポット市場におけるコマ毎のシステムプライス、エリアプライス、時間前市場におけるコマ毎平均価格のいずれかが30円以上となる場合、電力・ガス取引監視等委員会は新たな監視及び情報を公開する仕組みを始めています。

 昨年冬の高騰は燃料制約に起因するとされ、高需要期に価格が上がることは普通に考えればあり得るだろうと思われました。しかし今冬の電力価格には、前年までにない特徴がみられます。2019年、2020年はまだ残暑が厳しく高需要期である9月まで(寒冷地を除く)は高値を付けますが、端境期の1011月は低需要期となり電力価格は低く、それが一般的でした。しかし今冬直前の20219月の電力価格は低水準で推移したのに対し、10月になると電力価格のボラティリティが急激に高まり、その後も高騰相場は継続しました。

その背景には何があるのでしょうか。先述の監視委員会の124日制度設計専門会合で、旧一電の買い入札価格は年末から年始にかけて中央値で3040円台/kWhと昨年10月に比べても高い水準で推移したことが指摘されました。それに対する旧一電の説明は、燃料費の高騰を背景に経済差替の対象となる電源の限界費用が高くなっているためとしました。その一方、新電力の買い入札価格の中央値は202110月から継続的に80/kWhで推移しています。1月中旬以降は安値圏30%の価格が60/kWhに近づき、買い入札価格の水準がさらに上昇傾向であると指摘し、これが価格高騰を招く大きな要因であるとしました。

大手電力(旧一電やJERA)の買い約定量が増えていたことも指摘されています。市場取引のかなりの部分を大手電力のグロスビディングが占めている現状に照らせば、高騰相場が継続する理由に大手電力による買い戻しがあるとする見方はできるかもしれません。市場への玉出し役であるはずの大手電力には、市場から正味買い越しになっているところがあります。

 一方で、九州などでは今冬においても休日昼間に0.01円に張り付く日もあり、昨年よりも同コマ数は増加しています。平日でも全国的に日中帯は相対的に価格が低くなっており、いわゆるダックカーブの度合いが強くなってきています。今後、需要側で時間帯別の変動価格が導入されることが検討されており、価格弾力性が低いと言われる電力においてどれほどの需要シフト効果がみられるのか、市場の推移を見ながらこの辺りも検証していきたいと考えています。

さて、先週121日に開催された電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会において、非FIT証書における発電側と需要家の直接取引について議論されました。(以下資料の後半部分)

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/061_05_00.pdf

資料および議論の流れから証書の直接取引は容認される方向で進んでいることは間違いなさそうです。これにより、日本においても非FITFIP電源を利用したPPA(フィジカル/バーチャル)導入の機運が高まることが期待されます。

また、資料中には需要家ヒアリングの内容についても触れられており、新規性・追加性にこだわった需要家もいれば、FIPとの組合せや卒FITも選択肢に入れているところもあり、需要家の事業環境や経済性に合わせた様々な形態のPPAが視野に入ってきているようです。

証書の直接取引の適用範囲については、今後同委員会で詳細が詰められていく模様ですが2030年、2050年のCNの目標に向けて、新規電源への投資促進はもとより既存電源を維持する必要性から、証書の直接取引といった付加価値の取扱いだけでも国は難しいかじ取りを迫られているという印象を受けます。

また、新規電源のみ適用とされる場合には、これまで曖昧であった「追加性」の定義についても共通認識が形成されると思われますので、審議の内容を引き続き注視し皆様に共有していきたいと考えています。

我々を取り巻く日本の電力業界は電力自由化と再エネ大量導入という二つの大きな課題を同時に遂行していこうという大変大きな転換点を迎えており、新たな電力政策が次から次へと打ち出されています。少し油断していると変化の波にのまれていくような状況にあるという事を感じておられる方が多数派ではないでしょうか。

今回は今後の再エネに関する制度変更や需要家の動向を前提に再エネ発電事業者の視点で考えた場合にどのようなリスクが存在するのか、又その各リスクからどのような方策が考えられるのかをまとめてみました。2022年4月から始まるFIP制度や今後更に広まっていくであろうコーポレートPPA、そして自己託送の対象範囲の拡大等について、発電事業者の視点で考察を述べてみたいと思います。

<インバランスリスクについて>

FIPにせよPPAにせよ、FITと大きく異なるのは発電量予測とインバランス負担が発電事業者に課されることです。これには一定のコストが発生しますが、FIPについてはインバランスコストという名目で実質的にプレミアムに上乗せされます。PPAにおいては、当該コストは需要家への売電価格に内包されたものになります。

<与信リスク>

FIT、FIPにおいて、与信リスクは存在しませんが、PPAについては需要家毎に与信リスクが異なってきます。これを売電価格に反映できるかは需要家との交渉次第ですが、長期の与信リスクを正確に見積もることは相当困難であるため現実的には難しいのではないでしょうか。

ただし、PPAの場合、他の需要家やJEPXおよび小売電気事業者等への供給先振替は適宜可能なため、その際のコストは発生するものの実質的な与信リスクはある程度減じられたものになると考えられます。更にFIPを組み合わせておけば、振替時にもプレミアムを受け取ることが可能ですのでリスク低減効果に与する手段と言えるのではないでしょうか。

<収益変動リスク>

FIPについてはFITに比べて収益変動が大きくなることは免れません(上振れの可能性もあり)。PPAについては、需要家との契約次第となりますが長期・固定価格での契約となることが一般的であると想定されますのでFITに近いと考えられます。

<需給一致(30分同時同量)>

FIT・FIPには存在しませんが、フィジカルPPAおよび自己託送においては制約事項となります。特に需要家の休業日や景気変動の影響等による電力需要低下時に発生する余剰電力をどのように取り扱うかは課題になりそうです。

また、バーチャルPPAについても四半期ごとに非化石証書の受渡しを行うので、その面では緩やかな制約が存在しているとも言えそうです(当該四半期の発電量が電力需要を上回る場合、発電事業者がそのリスクを負担する可能性がある)。なお、直近の審議会から、非FIT非化石証書についても新設電源に限り需要家が直接購入できる方向で整理される模様です。

なお、これもPPAにFIPを組み合わせておけば、余剰電力が発生する場合にも、市場もしくは小売電気事業者への売電収入に加えてプレミアムを受け取れますので一定のリスク抑制効果が期待できます。

<契約交渉・締結>

FIT・FIPは確立された手順を踏めば発電所を運開できるのに対し、PPAは需要家との交渉により基本的に個別契約となるのでやはり追加コストを要することは否めません。

以上のことを簡単に以下の表に纏めておきます。

 

インバランスリスク

与信リスク

収益変動リスク

需給一致

契約交渉・締結

FIT

なし

なし

不要

確立手順

FIP

あり

なし

不要

確立手順

V-PPA(FIP)

あり

あり

不要

個別交渉

P-PPA(FIP)

あり

あり

個別交渉 *1

自己託送

あり

あり

*2

個別交渉 *1

*1:小売電気事業者との連系が不可欠 *2:常に、需要電力>供給電力を維持

これらの比較から、発電事業者(特に太陽光)の視点から見た場合、やはりFITが一番有力な選択肢となり得るでしょう。但し、今後は制度面から、中・大規模出力の太陽光発電所はFIP発電所に集約されていく方向です。一方で需要家から今後追加性のある非FIT電源への需要の高まりや市場高騰の影響により、新設電源については低廉化が進むFIT買取価格に比べその他の売電方法(上記表FIP以下)が収益面で有利となる可能性が大きいのではないでしょうか。上述の通り、PPAの場合には与信リスクや30分同時同量(フィジカルの場合)に保険的な意味からFIPを組み合わせることは有力な手段と我々は考えています。

ただ、ここでFIP電源における追加性の有無の判断が問題になります。

ゼックパワーでは、需要家と発電事業者が予めPPA契約を締結しその手段としてFIP電源を活用することは追加性があるとの見解に立っています(既に運開されたFIP電源でPPA契約を新たに締結するのは追加性なし)が、最終的な判断は需要家の考え方次第になるのではないでしょうか。

日本のFIP制度について経済産業省は、ポストFITの再エネ自立化へのステップとして市場原理を導入しながら投資インセンティブを確保する手法と紹介しています。その一方で、FIT・FIPの先にある市場とされるPPAへの関心が高まっているように感じられます。PPAを積極的に活用するのが米国の大企業などです。米国は日本と異なりFIT・FIP制度がなく、再エネ電力を調達する手段としてコーポレートPPAの活用が拡大しています。

日本でも今年9月Amazon社が三菱商事とPPAを締結し、2022-23年にかけて順次稼働する首都圏および東北地方の太陽光発電設備が発電する年間 23,000MWhの集約型太陽光発電プロジェクトを実施することが発表されました。コーポレートPPA を活用するケースとして日本初で最大とのことです。またオフサイトPPA を対象にした環境省の補助金交付事業なども行われています。

 Amazon社を含むGAFAなどと呼ばれる巨大企業等が調達する再エネ電力を選択するうえで重要な条件とされるのが追加性(additionality)です。新しい再エネ発電設備を増やし、その増加分で火力発電の電力を減らし、発電に伴うCO2排出量を削減する効果があるため気候危機を抑制する観点から効果的であるためです。証書を購入する方法は、すでに存在する発電設備が対象になるため、新たにCO2排出量を削減することにはつながらないという考え方が世界的にも主流になってきています。

太陽光や風力など再エネ発電設備を新設し、その電力を購入する企業はCO2排出量ゼロの電力として利用でき、火力発電の電力を代替できるため国全体のCO2 排出量は減少します。新設の発電所とコーポレートPPA を締結してその電力を購入すれば、追加性のある再エネ電力を長期的に調達できることになります。

日本でのPPA(バーチャルPPA・フィジカルPPA)はFIPを絡めて構築することも可能ですし、一方で自己託送という選択肢も出てきました。これらはいずれにせよ発電量予測やインバランス責任が発生することになりますが、追加性も含めこの続きは後編で述べさせていただきたいと思います。

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