ZPコラム

ZPコラム vol.21 『安定的だった2023年1月のJEPXスポット市場価格』

振り返れば2年前の2021年1月、一時はインバランス料金上限(当時)の250円/kWhになるなどスパイク(価格の急激な跳ね上がり)が頻出し、昨年の2022年1月も80円/kWh程度の高騰が何度かありました。今年1月のJEPXスポット価格は、燃料価格高騰の影響を受けて価格の水準は高いものの、寒波襲来があっても目立ったスパイクもなく安定的でした。その背景には何があったのでしょうか。

2021年1月はその前年秋頃から燃料不足などにより価格が上昇していたところ、新型コロナウイルス感染症の影響もあり電力需要が抑えられる中、一部大手電力が冬場の燃料不足に陥り自社発電を抑制せざるを得なくなり、市場調達が増えたことなどがその原因とされました。この時、インバランス価格の上限価格の妥当性に議論が及び、ブロック入札やグロスビディングの問題などもクローズアップされました。

2022年1月は前年の反省から、追加供給力公募(kW公募)と追加電力量公募(kWh公募)など冬場の電源不足や燃料制約の回避策が導入されました。にもかかわらずコロナ禍からの需要回復傾向に合わせて燃料価格が上昇し、一部の大手電力が電力市場への入札価格(≒限界費用)にその時の国際燃料市場価格を反映させる動きが広がり、電力市場は燃料市場との連動性が強まりました。

そして昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻は世界的に燃料価格を上昇させ、燃料不足は世界中で電気料金の高騰をもたらしました。しかし欧州のLNGの備蓄が整備されると昨年秋頃からLNG価格は落ち着き、欧州では今冬が予想外の暖冬であったことも影響して今年1月のJEPXスポット価格は過去2年と異なり変動は小さく、安定的な値動きとなりました。

先月下旬に10年に1度という大寒波が襲来したにもかかわらず価格変動が小さかった理由の一つは、今冬に向けてLNGの輸入を早期に進めて貯蔵し、長期停止している電源の再稼働の準備を進めたことが挙げられます。もう一つは戦略的予備力の増強です。これはドイツなどが採用する容量メカニズムの1つのことで、日本では今回実施したkW公募とkWh公募(先述のとおり)が相当します。電気料金が上昇する局面で、大寒波襲来もあり全体的な需要が大きく減っていないにもかかわらず、相場に落ち着きをもたらしました。

また、太陽光発電などの再エネ電力の影響も小さくありません。今年1月に九州では平日でも0.01円/kWhに貼りつく時間帯がたびたびありました。発電設備のエネルギー変換にかかる限界費用が市場への売り単価になるので、電力市場はどの電源が限界電源になるかにより決まります。エリアや時間帯により電力市場は化石燃料から再エネ電源の限界費用への収れんが始まっているものとみられます。

電力市場には依然として不安定要素が多くあります。ウクライナ侵攻を背景とする想定外の事態による世界的な電気料金高騰も続いています。その一方で世界的にGX(グリーントランスフォーメーション)をより強く推進する動機となっており、燃料価格に左右されない再エネ電力が増えれば電力市場はより安定感を増していくものとみられる点も付記しておきたいと思います。(参照:日経エネルギーNext bit.ly/3IpG6cV)