ZPコラム

ZPコラム vol.19 『日本のカーボンプライシング導入』

11月29日に総理官邸で開かれたGX実行会議において、政府が検討しているカーボンプライシング(以下「CP」とする)の導入に向けた、新たな制度案が示されました。その中で、企業に排出削減の取り組みを加速させるため、排出量を削減した分を株式や債券のように市場で売買する排出量取引を、2026年度以降に本格稼働させることが示されました。すでに東京証券取引所では、経済産業省からの委託事業として試行取引を行うカーボン・クレジット市場の実証を9月22日に開始しています(2023年1月末まで)。

制度案ではまた、化石燃料の使用を減らすため、電力会社に対しては、将来的に有償で排出枠を割り当て、負担を求めるとしています。さらに電力会社に加え、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を輸入している石油元売り会社、商社などにも一定の費用を負担させるとしています。再生可能エネルギーや蓄電池など、脱炭素につながる投資を「GX経済移行債」という新たな国債を発行して進め、企業が負担する資金を償還財源に充てるとのことです。一方で今回の案では、広く企業などに対して課税を行う炭素税の導入は見送られました。

それでは日本の立ち位置は現在どこにあり、CPの導入は我々にどのような影響が及ぶのでしょうか。

世界銀行の報告書「State and Trends of Carbon Pricing 2021」では、世界で炭素税や排出量取引制度などのCPを導入している国や地域はあわせて64(2021年時点)と報告されているので、日本は後発組といえるでしょうか。フィンランドは1990年に世界で初めて炭素税を導入した国で、CPの先進国とされます。炭素税という形でいち早くCPを取り入れ、CO2排出量の削減を達成しながら、経済成長も実現しているとして模範事例的に扱われることがあります。

少し前の資料になりますが、環境省のCPに関する検討会( www.env.go.jp/content/900444188.pdf )においてはCPの役割として以下の点が強調されていました。

  • CPは、設定される炭素価格以下の対策の実施を後押しする。すなわち、炭素価格によって有利になる手段・技術が既存手段・技術と「代替」され、削減が進むこととなる。
  • その時点のCPのみではその普及を後押しできないため、別途の施策が必要となる(ただしCPは、採算ラインの改善を通じて先進技術の社会実装を加速させる)。

CP導入が及ぼす影響については、家庭の場合、CPは企業に経済的な負担を強いるものであり、それが製品やサービスの価格に転嫁されることで、消費者の負担が増える可能性があります。電気やガス、ガソリンなどは生活に必須であるうえに、価格が上がっても需要が減りにくいことや、所得が少ない家庭ほど家計に占める光熱費が高いことなどから、CO2の排出コストが上がった場合に高所得家庭よりも大きな負担となる可能性があります。また、再生可能エネルギーに対しては優遇措置がとられる可能性も考えられます。

企業の場合は、長期的に大幅な排出量削減を実現するためのイノベーションが求められます。炭素税などのCPは、企業に直接的な経済負担が課されることになり、そのイノベーションに必要な研究開発の原資の圧迫や、コストが上がることによる国際的な競争力低下などに対する危機感が示されています。一方で、企業が排出量取引の議論や実証の場に参加するなど自発的にGX経済移行を進めることもでき、努力が正当に評価される仕組み作りへ積極的に関わっていくことも一つの戦略であると思われます。(参考:朝日新聞社 https://bit.ly/3WvCxrK )