ZPコラム

ZPコラム vol.29 『グロスビディング休止のなぜ』 

2023年7月27日の電力・ガス取引監視等委員会(第87回制度設計専門会合)において、2017年から続いてきたグロスビディングを休止する方針が承認され、この10月から休止されました。その背景には何があったのでしょうか。

グロスビディングとは、余剰電力を中心に行われていた卸電力取引所での取引(ネットビディング)に加え、旧一電など大手電力の社内やグループ内取引の一部についても卸電力取引所を介して売買する取り組みです。①市場の流動性向上、②価格変動の抑制、及び③取引の透明性向上の効果を期待して導入されました。

そのうち①市場の流動性向上について、卸電力取引所における取引量は、2017年4月の時点で電力需要の3.5%だったものが2018年4月には17.1%に、2023年3月には39.9%まで増えています。②価格変動の抑制についても、同監視委員会はスポット市場の価格感応度を評価しており、2016年8月に売り追加時が▲0.91円、買い追加時が+1.14円だったものが、2021年8月には売り追加時▲0.41円、買い追加時+0.40円と着実に低下したと報告しています。

指摘されるのは③透明性の向上です。高値での買い戻しが許されてきた経緯があることから、市場価格の形成に影響する可能性が指摘されていますが、行政側は価格中立(価格に影響を及ぼさない)と説明するなど議論は分かれています。

2020年の価格高騰時は燃料不足、2022年はウクライナ侵攻などの影響による天然ガスや石炭などの燃料価格の高騰に起因したもので、大手電力が電力需要を読み違えて発電部門が十分な燃料調達ができなかったことで発電量不足になりました。燃料制約が引き起こす問題は、要するに売り玉不足です。大手電力はグロスビディングで売り投入した分は全量を確実に買い戻すためシステム上の上限である999円/kWhで買い札を入れる、いわゆる絶対買いをしたとされます。売り玉不足の状況で大量の絶対買いが横行すると玉切れ付近で供給曲線が急激に上昇し、本来あるべき均衡価格からかけ離れた高騰を招く可能性があります。

今後の電力市場の動向をよく見ていく必要がありそうです、また市場運営の面からもこれまでのグロスビディングの影響をしっかりと検証してもらいたいと思います。